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なんかぶつぶつ言ってます。
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キリリクのSSですが。


いろいろ修正しようかと思ったのですが
結局どう直せばいいのかよくわからなくなってきたので
ほとんど無修正のままですがアップします・・・スミマセン(汗)



拍手ありがとうございます。
お返事です。

>隆さん

某所でもすでに返信いたしましたが感想ありがとうございます。
講座はお察しの通り錆龍さんのブログでございます。
あの講座は勉強になりますよね。
キャラ崩壊とか私もやらかすので分かります><
私の場合はキャラの役割分担のところが特になるほど・・・と思いました。その辺は全く考えず適当にやってたので今後参考にしていきたい部分です。
ツクールモチベは私もかれこれ年単位で地面スレスレを漂ってるのでアレですが、お互いぼちぼちやりましょう;
ではではー



50000ヒットのキリリク
「ティーアとルシフェルが結婚に至った直接のエピソード」は
続きにおいてますんで、興味のある方はどぞ~

それなりにいちゃらぶしてるかもなんで、
甘々がちょっと苦手な方は遠慮したほうがいいかも。
かといって好きな人が満足できるほどでもありませんががが。
あと文章がいろいろと変だけど突っ込まないでね。






夕刻から空一面を覆っていた黒い雲は夜になっても一向に去る気配がなく
降り続く雨は一層勢いをまして窓を激しく打ち付けている。
時折夜の闇を切り裂くように雷が走ったかと思うと、どぉん、という地響きと共に森の奥へと消えていく。
そのたびに窓ガラスがびりびりと細かく震えた。


雨風と雷の織りなす迷惑な音のコラボレーションから逃れるため
ティーアは二階の自室で枕をかぶり耳をガードしたりなどしてしばらく抵抗していたが
やがて眠りに就くことを諦めると階下へと足を運んだ。
一階の居間に足を踏み入れると、同じく眠れなかったらしいルシフェルがソファの中央に腰かけて本を読んでいた。
本の中身に没頭しているのか、彼女には気づかない様子だ。


「ひどい雨ね」

とティーアが声をかけると、そこで彼ははじめて彼女に気づいたらしく顔を上げて

「そうだな」

と短く答えると、座る位置をすこしずらして彼女が座れるスペースをつくった。
ティーアがそのスペースに腰かけると、ルシフェルは読んでいた本を静かに閉じてテーブルの上に置いた。

彼がそうするときは自分と話したがっているときだ、ということを彼女はよくわかっていたので(本に集中したいときは自分が隣にいても本を置いたりせず話しかけても適当な相槌しかうってくれないのだった)遠慮なく会話を続けることにした。


「こんなひどい天気、久しぶりよね」

とティーアが言うと、ルシフェルは何か思案するような顔になり


「そうだな・・・・・・こんなひどい天候の日は、本当に久しぶりだ」


と、しみじみとつぶやいた。
その様子を見て、ティーアは彼も自分と同じことを考えたのだな、と思った。


「私たちが初めて出会った時も、こんな天気だったわよね」


と、彼女がその考えを口にすると、それを受けてルシフェルは

「ああ・・・・・・そうだったな」

と短く返したが、彼のその短い一言の中に込められた思いの深さは彼女にも十分伝わっていた。
ティーアがそっとルシフェルの肩に寄りかかると、それに応えるように彼は彼女の肩に手を回すとそっと抱き寄せた。


今日と同じような激しい豪雨の中
神の愛娘と魔王――人間と魔族の代表として敵同士として出会った二人が互いに愛しあい、
こうしてひとつ屋根の下に暮らすことになろうとはティーアは考えだにしていなかった。




今この時がずっと続いてほしい――


ティーアは、そう強く思った。
けれど一方で、今の関係は一時のことで永遠には続かないのだろう、とも思っていた。


***


「長くは続かないって、どうしてそんな風に思うんですか?」


数日後、以前から抱いていたそんな自分の複雑な思いについてレイヴにこっそり打ち明けると、そう言って彼は怪訝そうな顔をした。


ルシフェルの側近であるレイヴは、
幼いころから一緒に育ったルシフェルを一生仕える主君としてはもちろん、
それ以上に実の兄のように慕っており
それゆえ最初のころはルシフェルの近い存在となった得体のしれない神の愛娘のことを警戒心を持って監視していたふしもあった。
が、彼なりにティーアの人となりを信頼できると判断したのか監視するような目線はいつしかやわらかいものとなっており、今では彼はティーアの良き友人であり相談相手となっていた。


(まさか、こんな風に彼に恋愛相談をする日が来るなんてね)

少し心配そうな眼差しで自分を見つめるレイヴを見てティーアは少しおかしくなった。

「だって、ルシフェルは現在ただ一人の魔王・・・・・・なんでしょ?」
「ええ、そうですけど?」

ティーアの問いは、そうではないというわずかの期待を込めて発されたものだったが、
それを否定するレイヴの答えを聞いて予想通りではあったもののティーアは落胆した。


「魔王の力って、冥王ハーヴィスの末裔なんでしょ。つまり子孫に血筋的に伝わっていくものなのよね?」
「ええ・・・・・・それはティーア様もご存じだと思いますけど」


ティーアの発言の意図をくみ取れないのか、レイヴはますます怪訝な顔になる。
その様子を見て、ティーアは若干苛立ちながら


「だからっ!次の魔王にはルシフェルの子供――ってことでしょ?」

と言った。

その発言を聞いて、レイヴははっと表情を変えた。

「私もルシフェルも不死身じゃないもの。いつか必ず死が訪れるわ」

つぶやくようにそういうと、ティーアはいったん言葉を切った。
まだ身近に感じているわけではないが「死」という言葉にティーアもレイヴも思わず神妙な面持ちになる。


「私が死んだら新しい神の愛娘が現れる。だけど魔王はそうじゃない」

「・・・・・・そうなると、魔王と神の愛娘、両者の存在または不在でバランスを保ってきた人間と魔族の均衡した関係が崩れる、というわけですか」

ティーアはレイヴの発言を受けて大きくひとつうなづいた。

「それは、魔族側としては避けたいことでしょ?
となるとどうしても魔王の血筋を絶つわけにはいかないって話になるじゃない。
・・・・・・でも」

続きに何を言おうとしているのかは、レイヴにも予想がついた。
が、あえて続きを引き継がずティーアの言葉を待つ。

「でも――私が彼の子供を産むことはできない。
私が神の愛娘の資格を失うことはできないから・・・・・・」

といったティーアの表情はとても切なそうに見えて、レイヴは掛ける上手い言葉を見つけられず戸惑った。


「ルシフェルが生きてることを知ってるのは、レイヴとヴァフリーさんくらいだけど
ヴァフリーさんがそのことについて何も考えてないはずがないと思う」

つまり、そのうちルシフェルに妻となる人物を探してくるつもりなのじゃないか――
とは憶測とはいえさすがに口にしたくなくて、ティーアは言葉を飲み込んでうつむいた。

ヴァフリーはレイヴの叔父にあたる人物で、前魔王と現魔王――つまりルシフェルに仕えてきたいわば魔族のブレーンというべき存在である。
ルシフェルにとっては単なる側近という立場を超えて頼れる父のような存在であったし、
ティーアにとっても優しいおじいさんのような人物でありよき相談相手であったが
長い期間実質的に魔族を束ねてきたのは彼であり、
ルシフェルのいなくなった今はその責を一人で担っている実情を踏まえると
彼女の幸せより魔族の将来を優先するとしてもやむをえまいと思わざるを得なかった。


「ヴァフリー殿・・・・・・ねえ」

いつも飄々とした、それでいてしたたかな叔父の顔を思い浮かべながら
レイヴは甥として彼なりにヴァフリーの行動を予測してみた。


「案外、そんなに深く考えていないかもしれませんよ。
あの方は色々考えていそうに見えて、案外成り行き任せな部分もありますし」

というのは、やや期待の度合いが高い予測ではあるものの
案外そう実際とかけ離れていないようにレイヴには思えた。
が、彼の言葉を聞いても相変わらず憂いの表情を浮かべてうつむいているティーアを見てレイヴは

「どれだけ緻密に計画を立てたとしても、そしてそれを忠実に実行できたとしても
人一人の思惑通りに歴史が動くことなどない。
最終的に歴史を動かすのは民衆であり、時世の流れだ」

と、そこまで一気に改まった口調で言った。
驚いたティーアが顔をあげて自分のほうを向いたのを確認してからレイヴは

「――って、いうのは叔父の言葉なんですけどね」

と普段の口調に戻ると
ルシフェル様には内緒ですけど、と断りを入れてこう付け加えた。

「ルシフェル様の計画が思惑通り成功したのは奇跡に近いことだと叔父は言ってました。
実際、計画が失敗した時のことを考えてひそかにいくつか策を練っていたらしいですよ」

それは初耳だ、と驚くティーアにレイヴは

「ヴァフリー殿というのは、そういう人物なんです。
ルシフェル様のことを、魔族の長としてではなく息子のように大事に想い、
あの方の幸せを何より望んでいらっしゃる方ですから。
だから、きっと大丈夫ですよ」

と言うと、優しく微笑んだ。

確かに、そうかもしれないな――と人の良い笑顔を浮かべているヴァフリーの顔を思い出してティーアは思った。


そのヴァフリーが突然倒れた、というしらせがティーアとルシフェルの二人の元に届いたのは
ティーアとレイヴがそんな会話を交わした十日ほど後のことだった。


***


「お久しぶりですのう、ルシフェル様。ティーア様も」

知らせを受けて急ぎ城に向かったルシフェルとティーアをヴァフリーは笑顔で出迎えた。
知らせに来たレイヴの様子からもう少し一刻を争う状態を予想していた二人は
案外元気そうな彼の姿を見てほっと胸をなでおろした。

「倒れたと聞いて驚いて飛んできたのだが、存外元気そうでなによりだ」

とルシフェルが言うと、ヴァフリーはふぉふぉふぉ、と愉快そうに笑うと

「そうでもいわないとお二人ともなかなか会いにきてくださらんからの」

といった。

「・・・・・・まさか、嘘だったのか?」

とあきれるルシフェルを見て、ヴァウリーは再び愉快そうに笑った。


「まったく・・・・・・冗談にならない嘘はやめてくれ。お前の年ではシャレにならないだろう」


と言うと、ルシフェルは脱力したようにそばにあった椅子に座りこんだ。
その様子をヴァフリーは可笑しそうに眺めていたが、ふと真顔になると

「ルシフェル様が城を出られてから、もう三年になりますな・・・・・・」

とつぶやいた。


「そうだな・・・・・・そうか、もうそんなになるのか」

と返したルシフェルだが、突然そんなことを言い出したヴァフリーの真意が気になって


「突然どうした?」

とたずねた。

ティーアとレイヴもこの間の二人の会話を思い出し、思わず姿勢を固くしてヴァフリーの言葉を待った。

しかし、ヴァフリーはなんでもございませんよ、と軽く流すと黙ってルシフェル、ティーア、レイヴの顔を順に見つめた。

そして再びルシフェルのほうを向いて

「ルシフェル様」

と優しく呼びかけると

「私の一番の望みは、ルシフェル様が幸せになることでございますよ」


といった。そして

「せっかく自由の身となったのですから、魔王としてではなくルシフェル様ご自身の人生を好きなように歩んでくだされ。それが爺の願いですて」

と言うと、そっと手を伸ばすとルシフェルの手を握った。
そして、ルシフェルの横に立っているティーアのほうを向いて

「ティーア様、ルシフェル様をよろしく頼みますぞ」

といった。



帰り道、ルシフェルはヴァフリーが自分たちに嘘をついて城に来るよう仕向けた件について
相変わらずあの老人は意地が悪い、などとぼやいていたが
最後に交わした会話について触れたときだけは真顔になり
らしくない発言だったな、とつぶやいた。

「まるで、これが最後の機会のような言い方だな。縁起でもない」

といったのはルシフェルだったが、彼と同じように漠然とした不安をティーアも感じていた。


二人が漠然と感じた不安ははたして的中し、
その時の会話がヴァフリーと交わした最後の会話となった。


***


ヴァフリーの葬儀は、レイヴを中心に城の魔族をあげて盛大に行われた。
その様子や葬儀に参列した魔族の多さからは、ヴァフリーという老人の徳や存在の大きさがうがい知れた。


しかしその場に、彼にもっとも親しかったであろう二人――ルシフェルとティーアの姿はなかった。
顔見知りに出会う危険性から参列できなかった二人は
その様子を離れたところから眺めるしかなかったのだった。


葬儀の間、一言も発せずただ黙って様子を眺めていたルシフェルの気持ちを推し量るとティーアは胸が痛んだ。
知らせを聞いた時から今まで、彼はいたって冷静であるように見えたし涙を見せるでもなかったが
本当に辛いことは表に出すまいとする彼の性格を知っているだけに、
ティーアには彼の悲しみがどれほど大きいかがよくわかった。



葬儀が終わり、集まった参列者たちが帰宅の途に就いて
人気のなくなった城の一室――いつも彼らが集まっていた今は亡きヴァフリーの部屋だが――でルシフェルとティーアはようやくレイヴと言葉を交わすことができた

「大役ご苦労だったな、レイヴ」

とルシフェルが声をかけると、レイヴは力なくいいえ、と答え

「ルシフェル様こそ、お辛かったでしょう。本当はもっと近くで別れを言いたかったでしょうに」

といった。
ルシフェルはそれには答えず、今は主を失った部屋をぐるりと見回すと

「この間の会話が最後の会話になってしまったな・・・・・・」

と、ぽつりとつぶやいた。
それを受けてレイヴは

「ヴァフリー殿は死期を悟ってらしたのかもしれませんね・・・・・・」

とだけ言うと、こらえきれなくなったのか下を向くと嗚咽を漏らした。
ルシフェルもティーアも黙ってそんな彼を見守った。

「すみません・・・・・・これからは僕が、叔父の代わりにしっかりしないといけないのに・・・・・・」

と、嗚咽混じりに謝るレイヴの肩をルシフェルは気にするな、というように軽く叩くと

「泣けるときには泣いたほうがいい。今日くらいは思い切り泣いておけ」

といった。


それは、もしかしたら彼自身に対しての言葉でもあったのかもしれない。
ティーアと二人帰路に就いたルシフェルは、
早々と自室に引っ込むと長い間自分を優しく見守ってくれた老人のために声を殺して一人静かに泣いた。


***


それから一月ほど後。
二人のもとにレイヴがあるものを携えてやってきた。
それは、ヴァフリーの最後の言葉が綴られたルシフェル宛ての手紙だった。


「これはいったいどうしたんだ?」


差し出された手紙を前にして、ルシフェルはレイヴに訪ねた。

「ヴァフリー殿の部屋を整理していたら出てきたんです」

と、レイヴはいったん簡素に答えてから詳細を説明した。


「叔父の亡くなった後、しばらくは後任者が決まらなくて部屋もそのまま放置されていたのですが
先日やっと、後任者が・・・・・・僭越ながら僕に決まりまして。
そういうわけで、僕が叔父の部屋を片付けていたら、机の引き出しから僕宛の封筒が出てきたんです」

「レイヴ宛ての?ルシフェルあてじゃなくて?」

「ええ。それで中を見るとルシフェル様にとどけるように、と書かれたメモとともにこの手紙が入ってたんです」


レイヴの話を聞いて、ルシフェルはかの老人の思慮の深さに感嘆せざるをえなかった。


「おそらくレイヴ以外の人間が見つけた場合のことを考えてそうしたんだろうな。
まあ、自分の手紙を見つけるのは十中八九レイヴだと確信してはいたと思うが」

と、ルシフェルは手紙の宛名の件について注釈したのち

「そうやって俺宛の手紙を分かりやすい場所に用意しておけば、
自分のいなくなった後に確実に手紙を届けることができるわけか・・・・・・
まったく、あの老人らしい茶目っ気だな」


と、半ばあきれたように言った。そして


「そこまでして、俺に何を言いたかったのか、あの老人は」


とつぶやくとルシフェルはその手紙をしまいこんだ。



レイヴが城に戻り、ティーアも自室へと入ったのを見定めてから
ルシフェルは自室の机に向かうと、レイヴに渡されたヴァフリーの手紙をそっと広げた。

「ルシフェル様へ」

端正な、それでいて力強い見慣れた文字が飛び込んできて、思わずルシフェルは目頭が熱くなった。
ルシフェルはいったん手紙から目を離すと、ひとつ深呼吸をしてから再び手紙に目を落とした。

「ルシフェル様へ


お元気ですかな、ルシフェル様。
貴方様がこの手紙をお読みになっている頃は、私は冥界に旅立っていることでしょう。

数年前までは己の体には自信があったのですが、このところめっきり年をとりましてな。
これは冥界に呼ばれる日も近いに違いないと思い筆をとった次第であります。
先日嘘をついて貴方様を呼びましたのも、予感があってのことですて、
貴方様は悪い冗談だと怒っておられましたがこの老人の最後の我儘と思ってどうか許してくだされ。

我儘ついでに、ルシフェル様に今一度お願いしておきたいことがございましてな。
まあ先日も少しお伝えしたのですが、もう一度だけ聞いてくだされ。

三年前、ルシフェル様が魔族と人間の争いを止めるために
神の愛娘――ティーア様を巻き込んで一芝居うつ、という計画を話されたとき
正直に申し上げて私はずいぶんと迷っておりました。

計画が果たしてそんなにうまくいくのか、ということももちろんございましたが
それよりも何よりも、
魔王として魔族のために自分の意思を犠牲にしてきたルシフェル様が
魔王という地位を捨てたのちもそのしがらみから離れられず
個人の幸せを求めることができないのではないかと思ったからです。

もしかしたら、十三年前の二の舞になるのでは、と私は危惧しておりました。
あの時もリスティン様のことで心を痛めておられた貴方様のことです。
新しい神の愛娘――ティーア様に恨まれる形になって悩まぬはずがありません。
仮の平和を維持するために
ティーア様の憎悪を一身に受けつつひたすら耐えるという
貴方様にとってはただただ苦痛の日々が待っているのでは、ということが心配だったのです。

ですが、それは全くの杞憂でございました。
ティーア様は非常に聡明かつ柔軟な考えのできる素晴らしい方で
貴方様のことを理解しようとし、そして理解してくださいました。
そしてそんな彼女に貴方様が魅かれ、また彼女も貴方様に魅かれていると気付いた時の
私の喜びようを貴方様は知る由もないでしょう。
貴方様が、望んだ平和な世の中で自由と幸せをやっと手に入れたと、私は大いに喜んでいたのです。

しかし、それは私の楽観的な考え方でございました。
あれから三年間、貴方様はずっと心は王のしがらみから逃れられずにいらした。
貴方様は、手の中にある自分の幸せを、つかんでもいいものかずっと悩んでいらしたのですな。


貴方様とティーア様が結ばれれば、新たな神の愛娘が現れる。
そうなれば、仮の停戦は破られて再び戦となるかもしれない。
そして、もしその時に貴方様とティーア様の間に子が生まれていたとしたら、
その子が魔王として戦場に赴かねばならない時が来るかもしれない。

貴方様の危惧していらっしゃることは、こういったことでありましょうか。
確かにそれは、将来起こりうることかもしれません。


ですが、ルシフェル様。

歴史とは、貴方様が思っているほど単純に動くものではございません。


仮に、貴方様とティーア様が結ばれたとしても、
すぐに新たな神の愛娘が現れるとは限りませぬし、
現れたとしてもすぐに停戦が破られるとは限りませぬ。
逆に、貴方様とティーア様が今のままの中途半端な関係を続け
結果新たな神の愛娘が現れなくても
その間に好戦派な人間が停戦状態にしびれを切らして戦を仕掛ける可能性もあれば
逆に魔族が何らかの動きを見せる可能性もあるのです。
そうすれば、貴方様やティーア様も何らかの形で再び戦に巻き込まれぬとも限りません。

個人の一つ一つの行動は、確かに何らかの未来を手繰り寄せるものでありましょう。
ですが、最終的に歴史を動かすのは民衆であり、時世の流れなのです。


ルシフェル様の危惧されていることは、確かに将来起こる可能性の高い事態です。
が、その未来が不幸な結末を迎えるかどうかは、
そのときその時代を生きている者たちの行動次第であり、彼らの努力次第で変わりうるものです。


個人の力でできうることには限りがあります。
その限られた中で、貴方様はいったん争いを止めるという大きな歴史的出来事において重大な役目を果たされたのです。
そのことは大いに誇れることでありましょう。
皆の幸せのために己を殺してずっと貢献してきた貴方様が、
自ら勝ち取ったつかの間の平穏の中で残りの人生を己の幸せのために生きても誰も貴方様を責めますまい。
少なくとも、私はそう思っております。


先日、お会いしたときにルシフェル様に直接申し上げた通り
私の一番の願いは、ルシフェル様が幸せになることでございます。


自らつかみ取った平和な世の中で、己の幸せをしっかりとつかんでくだされ。ルシフェル様。
ルシフェル様とティーア様、お二人ならそれができると私は信じております。


ルシフェル様の忠実なる臣下であり友でありお父上がわりの ヴァウリー」




手紙を読み終えたルシフェルは、ふぅ、と軽く一息つくと、顔を上げた。


そして、そのまましばらく視線を宙に漂わせていたが
やがて、何か思い立ったように勢いよく立ちあがると部屋を出て行った。




そのころ、ティーアは自分の部屋で椅子に座りこんでぼんやりと部屋の隅を眺めて考えごとをしていた。


考えていたのは、無論ルシフェルに手渡された手紙のことである。

レイヴがヴァフリーの手紙を手渡して城にもどったのち
いったんはその手紙をしまいこんだルシフェルだったが
彼が手紙の中身が気にしていることは明らかだったので
ティーアは彼が一人になれるよう気を利かせて早々と自室に戻ったのだったが
手紙の中味が気になっているのはティーアも同じだった。


(ルシフェルはもう中身を見たのかしら。中には何が書いてあるんだろう?)

手紙の中味を想像しようとして
ティーアはヴァフリーと最後にあった時の会話を思い出してみる。

「私の一番の望みは、ルシフェル様が幸せになることでございますよ」

彼の声が脳裏によみがえった。
そして、ティーアはふと
ルシフェルの幸せ、とは何だろう――と思った。

私は、彼と一緒にいると幸せを感じる。
だけど、彼はどうなんだろう。同じように想ってくれているのだろうか――?

と、ティーアがそこまで考えたとき、突然ドアをノックする音がして彼女の思考は中断された。
ドアを開けようとティーアは立ちあがって入口に向かおうとしたが、それよりも早く

「ティーア、入るぞ」

という声とともにやや勢いよくドアが開いたかと思うとルシフェルが部屋に入ってきた。
かと思うと、ドアを閉めるのももどかしくティーアのほうに歩み寄ってくる。
どことなくいつもと様子が違う彼の言動にティーアはやや戸惑って部屋の中央で立ち尽くしていた。
そんな彼女の目の前まで来ると、ルシフェルは立ち止まり

「ティーア」

と、彼女の名を呼んだ。
そして、それに答えるように彼を見つめるティーアの両肩を軽く掴むと、
自分のほうに引き寄せるようにして顔を近づけ
彼女の唇に自分の唇を重ねた。

「!」

突然のことに、ティーアは動揺した。
彼とのキスははじめてではなかったが、
今回のように突然不意打ちのようにされるのは初めてだったので
思わずティーアは身じろぎした。
が、彼はそれを介さないとでもいうように、むしろ逆に彼女を強く抱きしめる。
そして、いったん少し唇を離すと、再び今度は先ほどよりはやや強く彼女の唇に自分の唇を押しあてた。
そんな風に続けさまに唇を求められるのも初めてで、ティーアは自分の胸の鼓動が速くなるのを感じた。

いつもより少し長いキスを交わして、ルシフェルはゆっくりと唇を離した。
そして、困惑の表情を浮かべて自分を見つめているティーアに向かい

「愛している、ティーア」

と一言、はっきりと言った。

そして、驚いたように目を見開いた彼女の目を真剣な表情で見つめ返すと

「結婚しよう」

と、プロポーズの言葉を口にしたのだった。

ルシフェルのプロポーズにティーアは舞い上がりそうになった。
今すぐイエスとうなずいて彼の胸に飛び込みたい気持ちでいっぱいだった。
だけど、ずっと彼女の心の奥にあった懸念がその気持ちとは裏腹に彼女の返事を鈍らせる。

「私も貴方が好きよ、ルシフェル・・・・・・でも、私は・・・・・・」

そう言って視線を落とすティーアの顔を覗き込むようにしてルシフェルが尋ねた。

「神の愛娘だから、俺とは結ばれることはできない――そう言いたいのか?」

驚いてルシフェルの目を見つめるティーア。

「お前が神の愛娘の資格を失えば、新たな神の愛娘が現れる。
そうすると今の平和は失われるかもしれない――
お前も俺と同じことを考えて悩んでいたんだな」

自分の考えていた通りの内容に、ティーアはうなずいた。

「俺も、ずっとそのことで悩んでいた。
だから、お前を愛していながらもはっきりとした態度が示せずに
いつもからかうようなことばかりしてしまった。すまない」

「ルシフェル・・・・・・」

彼の胸の内を初めて聞かされ、そっけない態度とは裏腹に
彼に深く愛されていたことを知ってティーアは嬉しくなった。

「俺は、逃げていたのかもしれない。
ややこしい問題は先送りして、
やっと手に入れたつかのまの平穏と、お前のいる生活に安住しようとしていた。
だけど、それじゃあ本当の幸せはつかめない。
なにより、愛する人を幸せにできないのでは意味がない、そう気付かされた」

気付かされた、という言葉が気になってティーアは尋ねてみた。

「気付かせてくれたのは、ヴァフリーさん?」

ティーアの問いにルシフェルはああ、と答えた。そして

「ヴァフリーの手紙に書いてあったよ。目の前の幸せをしっかりとつかみ取れと。
そしてお前とならそれができるとな。俺もそう思う。いや、お前と一緒でないと意味がないんだ」

と付け加えると、真剣な表情になり

「だから・・・・・・結婚しよう、ティーア。必ず幸せにする」

と改めてプロポーズした。
今度はティーアも迷わずはい、と答えると彼の胸に抱きついた。
ルシフェルは彼女の背中を抱きしめてありがとう、と言い
そうして二人はしばらく黙って抱き合っていたが
やがて見つめあったかと思うと今度はどちらからとでもなく顔を寄せ口づけを交わした。



そうして、その晩
二人は出会ってから三年の年月を経てようやくはじめて結ばれたのだった。


***


ティーアとルシフェルが出会ってから四度目の春――


ティーアは居間の椅子に腰かけて
やわらかな春の日差しのあふれる庭を窓から眺めていた。
窓枠で四角く切り取られたその景色は淡い緑と白い光で彩られた美しい絵画のようで、
何より命の息吹に満ちている。
解放された窓から入ってくる心地よい風がそっと頬をなでてゆく。
部屋の奥からはルシフェルが乾燥させた薬草を梳いたり束ねたりしている音がかすかに聞こえてくる。
それらを五感で感じつつうつらうつらとしながら
ティーアはしみじみと幸せをかみしめていた。


彼女が神の愛娘でなくなってから半年以上が過ぎていたが
新しい神の愛娘が現れたという話は今のところは伝わってきていなかった。
一方、ヴァフリーが亡くなり体制に若干の変更があった魔族側にしても
新たな動きを見せているという話は特に聞こえてきてはいない。
もっとも、人間と魔族双方の情報源であったレイヴが
ヴァフリーの後を継いだために多忙を極め、城を抜け出せなくなったせいで
情報自体が入りにくくなっている、ということもあるのだが
それでも、村の様子を見る限りでは今この時は平和そのものであった。


今この時がずっと続いてほしい――


と、ティーアはつくづく思った。
その願いは、ルシフェルと出会ったころから抱き続けていたものだが
事情が変わった今はその願いに込める思いも少し変わってきていた。


自分が神の愛娘でなくなった今、
この先いつかこの生活にも変化が訪れるのはほぼ確実なことだろう、と彼女は思う。
言葉には出さないけれど、ルシフェルもきっと同じ考えだろう、とも。
けれど、それは二人とも自覚した上で今の生活を選んだのだから後悔はしていないし
好ましくない事態が起きうる場合には共に力を合わせて乗り切ろうという覚悟もあった。
そして何より、二人なら大丈夫だろう、と思える強い信頼があった。


と、そこまで考えてから、ティーアはふと自分の腹に目をやると

ううん、二人じゃなくて、三人ね

と心の中でつぶやいて、優しくほほ笑んだ。


二人が初めて結ばれた夜、彼女の中に宿った小さな命は、
彼女らの将来への不安や心配をよそにすくすくと順調に育っていた。
あと一か月ほど後には生まれてくるであろう我が子のためにも
今の生活を守らなければならない、と決意を新たにすると
ティーアはその誓いを子供に伝えるかのようにそっと手を腹の上に置いた。
すると、いつの間にかそばに来ていたルシフェルが、その手に自分の片方の手を重ね、もう片方の手でティーアの肩を抱いた。
ティーアと子供、二人を必ず守ってみせるというルシフェルの声が聞こえた気がした。

「もうすぐだな」

手を添えたままルシフェルがつぶやく。

「そうね。あとひと月くらいかしら」

大きくなった自分の腹を見つめながらティーアは答えた。

「そろそろ名前を考えないとな」

「まだ男か女かもわからないのに?」

気が早いんじゃない、と笑うティーアにルシフェルは真面目な顔でこう答えた。

「俺の勘では男だ。言っとくが、俺の勘は結構当たるんだぞ。間違いない」

まったく変なところで強引なんだから、とティーアは苦笑いする。

「まあいいわ。で、男だったらどういう名前がいいと思う?」

「そうだな・・・・・・」

ルシフェルは考えるそぶりをみせる。そしてしばしの間ののち、こう言った。

「セイル、なんてどうだ?」

セイル。
ルシフェルの口から出た名前を、ティーアはゆっくりと反芻した。
淡い緑色に彩られた庭を、明るい日差しを浴びて元気に駆け回る
まっすぐな瞳をした少年の姿が見えたような気がした。

「いい名前ね」

と、ティーアは感じたままの感想を口にした。
じゃあそれで決まりだな、とルシフェルはティーアの言葉に満足したようにほほ笑むと、作業を再開するために部屋の奥へと戻って行った。
静かだった部屋の奥から再びかさかさと乾燥した草花が触れる音が聞こえてくる。
来年は子供をあやしながら彼の作業を傍らで見守る自分がいるのだろうか、などと想いを馳せつつまどろんでいたティーアは
今ではすっかり聞きなれたその音を聞きながらやがて眠りの世界へとおちていった。


-了-


****


あとがきってか言い訳。


えー、最後まで読んでくださった方。
読んでいただきありがとうございました。
小説――特にSSは苦手分野なのでうまくまとまらなくて四苦八苦でしたが
雰囲気だけでも感じ取っていただければ幸いです。

キリリクをいただいたので書き始めたこの話ですが、
実は本編をつくり始めたころからあった設定でした。
ヴァフリーはプロローグ時代のキーパーソンですねホント。

ヴァフリーが死ぬ場面は書くのは正直少し迷いました。
ヴァフリー老人は個人的にすごく好きキャラでしたし、
キリリクの内容の割に湿っぽくなりやしないかとも思ったんですが、
ここの設定はどうしても譲れなかったので入れました。
らぶらぶオンリーを期待された方は申し訳ない><
でもまあ、私的にはそこそこ満足いく話になったかな・・・と思います。

このSSは本編(≒未来)を知っている方が読むと少し切ない話かもしれません。
それはプロローグの宿命ですね・・・。
でもつかの間でも彼らの幸せを感じ取っていただければ幸いです。
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